2014年10月20日、National Report(ナショナル・レポート)は、バンクシーがイギリスのワトフォードで逮捕されたと主張する記事を発表し一時話題となった。
バンクシーは2010年の映画「 Exit Through the Gift Shop(イグジット・スルー・ザギフトショップ) 」で知名度を上げ、作品と継続的な匿名性が特徴のストリートアーティストである。
近年では2019年一月に東京都の小池知事が港区の防潮堤でバンクシーのものと思われる「傘を差したねずみ」についてツイートし話題に(関連記事:「バンクシーかもしれない絵」東京都港区の防潮堤で見つかる
あのバンクシーの作品かもしれないカワイイねずみの絵が都内にありました! 東京への贈り物かも? カバンを持っているようです。 pic.twitter.com/aPBVAq3GG3
— 小池百合子 (@ecoyuri) January 17, 2019
また、2018年秋にはオークションの最中、落札された絵が突如動き出したシュレッダーによって自壊するという突拍子もない事件が起きた(関連記事:
目次
ナショナル・レポートに出た「バンクシーの顔」とは
☟新聞報道でこの画像が「バンクシーの顔」としてネット記事に出たのだが

画像:National Report画面より引用
彼の正体はバンクシーではなく35歳のポール・ホーナー。つまりバンクシーではない。
なぜなら、この記事を掲載したアメリカのサイト「ナショナル・レポート」はパロディ・ニュースで有名なメディアだからだ。
例えば国内でいえばアンサイクロぺディアのような。
アンサイクロペディアとは、ウィキペディアのパロディサイトである。
アンサイクロペディアの目的はウィキ形式による風刺的(皮肉)な観点の記事を提供することにある。wiki内ではもっぱら事実無根、又は事実を誇張した内容の記事が作成される。
今回この「ナショナル・レポート」がバンクシー逮捕の情報を得たのが「Police Chief Lyndon Edwards」この警察署は実際には存在しないため、簡単にフェイクだということは分かるようになっているのだが、海外ではこうしたニュアンスは分かりづらいため、この冗談ニュースがほんとうのニュースとして海外には伝わってしまったようだ。
じゃあなんでこの「ポール・ホーナー」さんは訴えないの?顔出しがOKなの?

引用:National Report画面より
「ポール・ホーナー 35歳」という情報は分かったものの、通常ならばこんなフェイクに自分が犯罪者扱いされてたら訴えるはず。しかしポール・ホーナーはデカデカと顔を出され、場合によっては海外では犯罪で逮捕されたと誤解されかねない記事に出ても何かをしたという記事はない。
完全に上の「偽バンクシー男」のご本人で間違いない。
「ナショナル・レポート」の主執筆者
フェイクニュースサイト「ナショナル・レポート」の立ち上げ以来、ホーナーは同サイトの主執筆者であった。ホーナーが書いたフェイクニュースの中でもっとも広まったのは、アーティストのバンクシーが逮捕されその正体はポール・ホーナーという人物であるという記事で、2013年に投稿され2014年に大きく広まった。
引用元:wikipedia「ポール・ホーナー」より
要は
ポールホーナーは「バンクシーが逮捕された」報を発信したサイトの主執筆者で
記事を書いた本人であり、画像も本人
拡散してもらうことでサイトと自分の名が売れる
なんだマッチポンプか・・・
そりゃあ問題ないですよね、自分で好き好んで「この男がバンクシーだよ!」ってフェイク記事書いた本人だもん。
訴える訴えないの問題じゃない。自分で書いて自分で拡散してるんだもん。
むしろもっと広めてくれ!ですよね。なぜなら、こうしたサイトは閲覧者を増やせば増やすほど良いしサイトの知名度も上がる。
バンクシーという「匿名・正体不明」の存在を自ら名乗ることで、バンクシーの正体を知りたい大衆の好奇心を集中させる。まあいわゆるバンクシーの知名度を利用した売名行為ということになります。
自分の名前顔も有名になりつつ、記事へのアクセスも増やす。まあ確かに有名にはなれるかもしれないけどリスクの大きすぎるやり方であることは確か。
虚構のニュースが世界を動かす。ある意味ホーナーは虎の尾を踏んだわけで
ホーナーの狙い通り、彼の「ポールホーナー35歳=バンクシーだった!」虚構マッチポンプ記事は大きな話題を呼び、一躍ホーナーはメディアの寵児となった。
ホーナー氏は偽のニュース記事をフェイスブックや自ら立ち上げたウェブサイトに掲載。
大統領選でドナルド・トランプ氏が当選したのは自分のおかげだと主張していた。
米大統領選の最中からさらに選挙後もフェイクニュースは深刻な問題となった。でっち上げ記事の急増が選挙結果を左右したという批判もある。
引用元:BBC news JAPAN より
ホーナーの記事は2016年アメリカ合衆国大統領選挙にも「多大な影響」を与えた。CBSニュースによればホーナーのサイトはGoogleのニュース検索結果で常に上位に表示され、Facebookでも広くシェアされ、トランプ陣営の選対本部長コーリー・ルワンドウスキやエリック・トランプ、ABCニュース、FOXニュースが真に受けてシェアしたという。
つまり人々の中には大抵の検索結果の上位に出てくるということはそれが「信頼のあるニュースだ」という固定概念があり、話題性、センセーショナルな嘘を書いたホーナーの記事が「信頼のあるコンテンツ」だと錯誤され、大手メディアにまで真に受けられ拡散されてしまった。
彼がやったことはただ一つだけだ。「嘘をさも本当らしくもっともらしいニュースに仕立てた」こと。ただそれだけだ。
虚構が現実にまで侵食してきはじめていた。トランプの当選にホーナーの記事が多大な影響を与えたというのは彼の強い自惚れだとしても全くの無関係とはいえない。
「バンクシーはポール・ホーナーだった」記事のヒットぐらいで満足していれば良かった。それなのに彼の自己顕示欲はもはや止まらなくなっていた。
自分の「虚構ニュース」が社会情勢に大きな影響を与えている、その大きな力は彼を酔わせるに充分だった。
その裏に何があるかも知らないで、紙の盾でライオンに立ち向かった。それが彼の誤りの始まりだった。
「トランプをホワイトハウスに入れた男」と呼ばれたホーナーの考えとは
それでは彼は一体どういう考えからこうした記事を執筆していたのだろうか?
政治的信条から?それとも独自の考えがあって?それとも宗教上の問題だろうか?
ホーナーは後にこのアメリカ大統領選挙時期の記事について2016年11月ワシントン・ポストの取材に対し
自分の記事は「政治風刺」だ
「トランプ支持者はしょっちゅう、僕のサイトを取り上げる。トランプ支持者は、まったく事実確認をしないんだ。あの人たちは何でも投稿するし、何でも信じるから」
引用元:BBC news JAPAN より
同2016年12月CNNに出演した際は
「(自分の)記事はユーモアと喜劇に溢れている」
「人を教育するためにやっている。世の中には間違ったことがあるし、そういうのが嫌なんだ。」
引用元:BBC news JAPAN より
と自己弁護ともうそぶきとも取れる主張を繰り返した。いわば確信犯的に「トランプ嫌い」の彼はトランプ陣営を混乱させる手法を明確な意思を持って繰り返していたわけだ。
その終わりは意外なほど早く訪れることとなった。
米フェイクニュースの第一人者ポール・ホーナー 遺体で発見される
翌2017年9月18日、ポール・ホーナーは38歳の若さで亡くなった。アリゾナ州ラビーンの自室ベッドで遺体となり家族に発見された。死因は薬物の過剰摂取とみられている。
彼は処方薬の乱用癖があり、検死の結果、郡保安官事務所の報道官マーク・ケーシーは彼の死に事件性は見られなかったと説明した。
あまりにも若すぎる死だった。明らかなウソをついて、慌てふためき騙される人々を見、笑っているだけならばよかった。
しかし彼はあの「バンクシーは俺だ」の虚構ニュースによって世に出たが、その代わりその名声の大きさが次第に彼を押しつぶし始めていたのだろう。
つまり、一人で背負うにはあまりにも重すぎる業を一人で背負ってしまったのだ。
「ポール・ホーナーは死んだ」という最後の虚報を残して彼はそれっきりネット記事から手を引き、メディアからも姿を消してしまえば良かった。
顔も名前も明かさないバンクシーのように「名無しの正体不明」のままで虚構ニュースを書き続ければよかったのだ。
残念ながら最後のニュース「ポール・ホーナーの死」だけはフェイク記事にはならなかった。