10月11日、ロンドンで行われたサザビーズのオークションで104万2000ポンド(約1億5400万円)におよぶ高額で落札された「少女と風船」と題された絵が、落札直後に額縁にあらかじめセットされていたシュレッダーで半分が細切れになるというショッキングな出来事が起きた。
いったい誰が、何のために!?その場にいたオークション参加者だけではなく、そのニュースを聞いた誰もがショックを受けるこのハプニング。
今記事ではその背景について考えていこうと思う。
目次
「少女と風船」が自壊していくさま、ごらんください
まず下の動画に現れる場面は「この絵がオークションで落札されたときのために」というコメントと額縁にセットされる鋭い刃だ。
この動画をインスタグラムに投稿した人間はこの「少女と風船」の作者、バンクシー本人である。また、別の投稿写真では「going. going.gone・・・」というコメントが添えられており、オークションの「ありませんか、ありませんか、落札!」という言葉を皮肉ったものと思われる。
つまりこの「切り刻み」に驚く人びとの様子までを含めた芸術パフォーマンスだったということだろう。
さらにバンクシーは動画に
「芸術は爆発だ」みたいなもんですかね・・・
なぜ絵画が落札された瞬間シュレッダーが動き出したのか。サザビーズグル説
バンクシーがインスタグラムに投稿した動画を見ても分かるように、会場の中には会場の様子を撮影していたバンクシー側の人間がおり、落札の瞬間スイッチを入れ、半分絵を切り刻んだところでスイッチを止めたのだろう。
言うのも無粋だけど、当然オークション品の検品はしてるし、その時にシュレッダーに気付かないはずないし、タイミング的にリモコン操作した人は場内にいたわけで、この一件でサザビーズはバンクシーとグルだよね / 細断のバンクシー作品、価値倍増も? 落札者は購入の意向 https://t.co/0PR3LI2ez2
— HRUT (@HRUT1996) October 12, 2018
バンクシーの絵がシュレッダーの件,未だに「動力」と「トリガー」がわからない.切断が途中で止まったことを考えると,電池の組み込みかもしれない.で,問題はトリガー.どうやってあのタイミングで起動した.現場でスイッチ押したとしても無線前提.個人的にはオークション主催者とグル説を推す.
— Takaaki Ishikawa (@takaxp) October 10, 2018
この絵の壮大なオチに笑う。まさかのタイトルメタモルフォーゼ
バンクシーの代理人を務めるペスト・コントロールは、この作品を「愛はごみ箱の中に」と名付けた。
この作品を落札した女性(サザビーズの長年の顧客としか明かされてない)はこの「愛はゴミ箱の中に」を所持し続けるとのコメントを出し、の104万2000ポンド(約1億5400万円)を支払う意向を示した。

と女性は話している。ちなみにこの出来事で絵画の価値は二倍に上がったと評価されている。
仏美術専門誌アルトンシオン(Artension)のミカエル・フォージュール(Mikael Faujour)氏は、「バンクシーは自作を破壊することで買い手の資産家たちに損をさせるつもりだったかもしれないが、それは見込み違いだ」と指摘。「この破壊行為の後に残ったものには、新たな評価と、さらなる金銭的価値がつく」と述べた。
まさにパンクの本場イギリスらしいファンキーな出来事だし、それを許容した落札女性も大した人物だと思う。さすが絵に一億5000万円をポンと出せる人物は器が違う。
正直これはイギリスだから通じたシャレであって、日本でこれだと馬鹿にされたと思って怒り出すのが普通だと思う。いや、シャレだし芸術パフォーマンスだと頭では理解できると思うんだけど、やっぱりバカにされた感が強くてちょっと無理かな・・・
私はデヴィッド・リンチが好きなんですけど、絶対にありえないけどリンチの絵をもし購入して、いきなり落札した瞬間絵がじわ、じわ、と消えて行って全部真っ白になっちゃったら喜ぶかもしれない。
いわば「自分がそのパフォーマンスを買い、自分はそのトリガーになった人間だ」と思えば納得は行くかも。要はこんな滅茶苦茶なこと、アーティストの生き方、作風までも愛してないと無理だっていうことです。
パリの「バスキア展」にゾゾ前澤社長、ベッカムやLVMHアルノー家ら大物が集結 剛力彩芽の姿も│WWD JAPAN https://t.co/vdHNXknLuM
— storm (@stormakim) October 10, 2018
じゃあバンクシーって一体何者なのよ!?そのへん調べてみた
バンクシーがどこの誰なのかっていうと
・匿名
・性別不明
・国籍不明
・ロンドンが拠点
・つまり正体不明
というのが現時点で分かっている情報らしい。主に作品は壁画で残され、毒の効いた社会風刺が画風。
大英博物館やルーブル美術館で勝手に作品を掲出した
ディズニーランドを正面から皮肉ったテーマパーク「ディズマランド」を設営した
など、おいお前喧嘩売る相手がでか過ぎるだろう!という狂犬ぶりがすごい。完全に権威あるものには噛みつかずにはいられない体質のようだ。
権力をユーモアで皮肉る作風らしく、ならば世界で最も権威があるとされているサザビーズでこんな珍事を巻き起こすのは本当に本人笑いが止まらないと思う。
「芸術」って言えばこんな「破壊」も芸術として通ってしまうわけなので、そういう「芸術」という概念の曖昧さ事態も笑っているように見える。
バンクシー活動(目立ったもの)リスト
2007年 パレスチナとイスラエルを分断する超巨大な壁にグラフィティアートを描く
2010年 映画『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』がアカデミーノミネート
2013年 ニューヨーク市内で毎日ゲリラ的に絵を投下
2015年 ディズニーを風刺したアート遊園地『ディズマランド』を期間限定で建てる
2017年 パレスチナの分離壁の目の前に“ 世界一眺めの悪いホテル”を開業
2018年 自分の描いた絵をシュレッダーで切り刻む
バンクシーにインタビューした方の話を紹介
わたしが2004年にロンドンでインタビューをしたときに肩書きを尋ねると「アーティストと呼ばれるのは別に構わないよ。正直、どう呼ばれようと気にしないな」と丸投げでした。
実際アート界やこの社会では「どこの誰」が作品を作って、「誰」によって作品が評価されたかによって評価されがちですが、バンクシーは、いくら有名になっても、自分が何者であっても、「どこの誰」ではなく「何をどう描いたか・作ったか」を観て、作品に注目してほしいと願っているから正体不明を貫いてるのではないかと思ったのもこの頃です。
2000年代初頭に、自ら「芸術テロリスト」と名乗っていた時代もありましたが、肩書きを付けるとしたら、まさに、”アートを使って既成の価値観や権力に揺さぶるアクティヴィスト(活動家)”が近いのかもしれません。
「匿名・正体不明」を貫くことによって「絵画そのもの」を見てほしいと願っている、とインタビューした方は感じたわけです。
アメリカンブリキ看板 バンクシー グラフィティアート Banksy Graffiti Art サイズ:約30cm×約40cm。
つまり既存の固定概念「こうあるべき」と定まっている「概念の壁」自体も彼は絵によって破壊しようとしているのかもしれず、彼の成したパフォーマンスは一度限りのもので、これから今後絵を切り刻む作家がいたとしたならばもうそれは「バンクシーの模倣」でしかなくなってしまう。
もし今後「バンクシーのフォロワー(模倣者)」が出てきたならば今度は「バンクシー」という名自体が権威になってしまうわけで、そうなるとまた彼はそれを破壊に掛かるでしょう。
名前を突然発音不能の記号に変えた 「プリンス」のように。
バンクシーの起源は「グラフィティアート」つまり「壁のらくがき」
日本でもちょっと柄の悪い場所では壁の落書きを目にすることと思う。大抵は特に意味もないグニャグニャした絵で、異常に膨らんだムチムチのフォントを書きなぐっていて、完全に景観破壊しているし意味が分からない方が大半だと思う。
グラフィティはヒップホップの4本柱(ラップ、DJ、ブレイクダンス、グラフィティ)のうち一つであり、いわばアメリカの風土に馴染んだ芸術手法だ(私はちっとも芸術だとは思わないけど。単なるらくがきだと思う)
元々日本には馴染みのないものなので日本の景観で「浮く」のは当然なのだ。アメリカやヨーロッパのように「壁」というモニュメント自体が少なく、日本で同じようなことをしようとすれば電車の地下道、駅の高架下、橋の脚部分、商店街のシャッターなどいわば公共物や他人の所有物に落書きをせざるを得なくなるという事情もあり治安も悪く見えるため、嫌われやすい。
よって、日本では外国のもののように芸術視される傾向はない。もしバンクシーが日本のアーティストで日本で活動をしていたならば、これほど支持を集めていたかは果たしてわからないし、バンクシーの絵にここまで高値は付いていなかっただろう。
バンクシー ポスター インテリア グッズ 雑貨 美術 アート ストリート
では彼の「グラフィティアート」はイギリスではどのように捉えられているのか。
ロンドンで暮らしているとエリアを問わず、様々な場所でバンクシーが描いたグラフィティを見つけることができる。彼のグラフィティを探し求めて歩き回るなんてことをしなくても、何かの拍子でふらっといつもと違う道を歩いたときにどこかで見たことがあるイラストに出くわして、後で調べてみると彼の描いたものだったなんてことが月に何度か起こるのだ。
それくらいロンドンの街にバンクシーは浸透している。またそうやって街中で見つけられる作品の中には、強化ガラスでカバーが取り付けられているものもあるというのが現状だ。街として彼の作品を維持していくという意志が感じられ、ストリートアートにある程度寛容なロンドンでもバンクシーは別格の待遇を受けていると言えるだろう。
「挑戦」「パンク」「風刺」はときに無関係な人々も傷つける
だからといって世の中バンクシーに好意的な意見ばかりではない。もともとその地域の情勢や政治を風刺する画風のバンクシーはパレスチナ問題に関心が深いようで、2007年と2017年の二度、パレスチナの分断壁に絵を残している。
とくに賛否を巻き起こしたのが2007年の壁画「ロバと兵士」だった。
『ロバと兵士』
バンクシー pic.twitter.com/jzUdNNu0fz— せら (@Treasure_Table) September 1, 2018
もともとバンクシーがこの絵を描いた壁はパレスチナとイスラエルを分断する全長450kmにも及ぶ巨大な壁だ。
彼の声掛けで集まった14人のアーティストたちはこの壁をキャンバスにグラフィティアートを描き出す。
バンクシーは「フラワーボンバー(一番上の絵)」のほか「ロバと兵士(下の絵)」など6つの壁画を残したが、問題になったのが「ロバと兵士」だった。
この絵は爆発的な観光の目玉につながり、彼の絵を見ようと人々が押し寄せる。しかしその裏ではパレスチナ人を「ロバ」として貶めたと怒りに燃える人々もいた。
彼らはこの壁画を侮辱と受け取りこの絵を切り取り大手オークションサイトebayに売り飛ばす。
この問題を描いたドキュメンタリー映画「バンクシーを盗んだ男」は、イギ―・ポップのナレーションの元に進んでいく。アーティストとしてのバンクシーに興味を持たれた方は見てみると興味深い映画だと思う。
映画「バンクシーを盗んだ男」を観た。2007年バンクシーがパレスチナとイスラエルの分離壁にグラフィティアートを描くプロジェクトを強行、その時に描いた「ロバと兵士」が壁から切り取られオークションに出品された。ストリートアートの文脈、芸術的価値、後世に残すために保存すべきか?難しい。 pic.twitter.com/tl9aZyQQMS
— にゃん (@ku614) August 7, 2018
まとめ
この記事の要点は三点でまとめると
バンクシーはファンキーロック野郎
ディズニーにも噛みつく狂犬野郎
バンクシーは正体不明のアーティスト
ということです。おわり。
最後に可哀想な話を紹介しておきます
そりゃあこのオークションで使われた絵にしかオンリーワンの価値は付かないでしょうね(-_-;)
バンクシーの騒動で値上がりするかも?→自分の「風船と少女」を切り刻んだオーナー、「価値はタダ同然」と切り捨てられる – ねとらぼ https://t.co/1zK1RrxYBs
— 荒井 太亮@群馬の年収0円社長 (@TaisukeArai) October 12, 2018
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