超人気歌手アヴリル・ラヴィーンさんが日本版公式HP (英語原文サイトはこちら)で9月7日、自らが苦しんでいた病をファンに告白した。
2002年
2004年
2007年
リリースしたアルバムを三枚連続でヒットさせるなど才能溢れるボーカリストで日本とのかかわりも深く、震災の際はいろいろと心を砕いてくれた親日家の女性だ。
また、妹のミシェルさんがワンオクのベーシストRyotaさんと結婚したことでも知られている。
その対談をきっかけに交流が生まれ、ワンオクはアルバム「Ambitions」の「Listen」でアブリルと共演。
目次
アヴリルがファンに贈ったメッセージ
アヴリルラヴィーン THE UNOFFICIAL BOOK 復刻版
そんな彼女がこのほど告白したファンへのメッセージを一部引用する。
前作から5年が経ちました。ここ数年、自宅でライム病と闘っていました。肉体的にも精神的にも今までの人生で一番辛い日々でした。
でもこの病との闘いを音楽のパワーに変えることが出来ました。自分のベッドやソファーで曲を書いて、録音もそこでしました。
私は今回この病気のことや自分の脆さと向き合い、オープンにすることを決意しました。正直に言うと、どこか自分には病気のことは一切に触れたくないという部分もありました。でも向き合う必要があったのです。
それはもはやこの病が自分の人生の一部になっているという理由だけではなく、ライム病という非常に深刻な病に対する認識を高めていく必要を感じたのです。たった一回の虫刺されが、深刻な事態を引き起こします。
ライム病が早急に処置されなければならないことを人々は知らないのです。ライム病と診断されず、何も処置が施されないケースが多々あります。そしてライム病と診断されたとしても、治療費が高額で払えないことも多いのです。
私の財団は、こういった事態を防ぐための活動をしています。ウェブサイトには、ライム病予防の情報やリンクをいま提供していて、ライム病に対して正確な処置を熟知し、一早く治療を施してくれる医者を紹介しています。又、ライム病研究を更に促進するため、同分野における一流の科学チームと提携を結ぶことを近々発表する予定です
上記のメッセージは一部引用だが、彼女がこの病に苦しみながら、体を蝕まれる恐怖と戦い、時に打ちひしがれそうになりながら、みごとに音楽を作り出した過程が綴られている。
今回発売されるニューアルバムに収録されている「ヘッド・アバーヴ・ウォーター」という曲は彼女が病の恐怖にもっとも苦しんでいたとき、病床で書かれた曲なのだそうだ。
ライム病とはなにか
ライム病は、野鼠や小鳥などを保菌動物とし、野生の マダニ(マダニ属マダニ)によって媒介される人獣共通の細菌(スピロヘータ)による感染症である。
欧米では現在でも年間数万人のライム病患者が発生し、さらにその報告数も年々増加していることから、社会的にも重大な問題となっている。
本邦では、1986年に初のライム病患者が報告されて以来、現在までに数百人の患者が、主に 本州中部以北(特に北海道および長野県)で見い出されている。
欧米の現状と比較して本邦でのライム病患者報告数は少ないが、本邦においても野鼠やマダニの 病原体保有率は欧米並みであることから、潜在的にライム病が蔓延している可能性が高いと推測されている。感染症法施行後 の報告数としては、1999年4~12月に14 例、2000年1~12月に12例となっている。
国立感染研究所「ライム病とは」より一部引用
ライム病は、米国で昆虫が媒介する最も一般的な感染症です。
通常、ライム病は夏から初秋にかけて発生し、樹木の多い地域に住む小児や若い成人の感染が最も多くみられます。
人間への感染は、ライム病の菌に感染したダニが皮膚を刺し、そのまま36時間以上にわたって付着することで起こります。短時間の付着ではめったに感染しません。
最初に、ダニに咬まれたところで細菌が増殖します。3~32日後に、咬まれたところから細菌が皮膚に侵入して、発疹(遊走性紅斑)が発生します。細菌は血流に入り、他の部位の皮膚、心臓、神経系、関節といった他の臓器に拡散します。
私は五か月間もずっと寝たきりでした。息が苦しく話すこともできず、動くこともできなかった。死ぬかと思いました。
2015年4月1日付「ピープル」誌にて アヴリル・ラヴィーン
最悪の場合体が動かなくなり、完治が難しいこともあるという。しかもいろいろな症状が出るために、大変診断が難しい病気なのだ。
アヴリルさんも実際にライム病だとの診断を受けるまでに半年以上の時間がかかった。
上記に引用した記事を要約すると
ライム病とはダニが媒介する感染症
欧米では年々感染者が増えており社会問題化している
日本では本州中部以北で主に患者が占められている
日本の患者数は少ないが、潜在的にライム病の菌を保有しているダニが多い可能性がある
ライム病を起こす危険のあるダニ「マダニ」の恐怖
私は東日本に在住しているが、当初西日本からこちらに住んだときよく耳にしたのが「ツツガムシ病」という病名であった。
地方ローカルニュースを見ていた際にも「河原や野山に行った際ツガムシ病に掛かった人の話を見聞きしたため、こちら特有の風土病だとの知識はあった。
ざっくりした知識でいうと、野山で「ツツガムシ」という虫に刺され、下手したら死ぬこともある、という認識だ。
だからこちらでは草や草木が茂っている場所に行くときは、マダニやツツガムシに刺されないよう、長袖や肌をそのまま晒さない、というのが共通認識としてある。
それではこの「ライム病」と「ツツガムシ病」何が違うのかということを調べていこうと思う。
重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)
ダニに刺されてから6日~2週間程度で、原因不明の発熱、消化器症状(食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛)が起きる、頭痛、筋肉痛、意識障害、出血症状(紫斑、下血)など様々な症状を引き起こす。重症化し、死亡することもあります。日本紅斑熱・つつが虫病
日本紅斑熱は2~8日後に、つつが虫病は10~14日後に、高熱、発疹、刺し口(ダニに刺された部分は赤く腫れ、中心部がかさぶたになる)が特徴的な症状です。紅斑は高熱とともに四肢や体幹部に拡がっていきます。紅斑は痒くなったり、痛くなったりすることはありません。治療が遅れれば重症化や死亡する場合もあります。ライム病
ダニに刺されてから、1~3週間後に刺された部分を中心に特徴的な遊走性の紅斑がみられます。また、筋肉痛、関節痛、頭痛、発熱、悪寒、倦怠感などのインフルエンザ様症状を伴うこともあります。症状が進むと病原体が全身性に拡がり、皮膚症状、神経症状、心疾患、眼症状、関節炎、筋肉炎など多彩な症状が見られます。マダニ媒介性の回帰熱
ダニに刺されてから、12~16 日程度(平均15 日)に 発熱、頭痛、悪寒、筋肉痛、関節痛、全身の倦怠感などの風邪のような症状が主で、時に、神経症状(意識障害、けいれん、昏睡)、リンパ節腫脹、呼吸不全、出血症状(歯肉出血、紫斑、下血)が現れます。
いずれもウィルスを保有したダニ、またはツツガムシに刺されることにより感染し、症状が重篤化しやすいことが共通している。
上記でもアヴリルさんがライム病だと診断されるまでに半年かかったという話と、いろいろな症状が出るために診断が非常に難しいという話を挙げた。
この病気だと早期に診断されるには
・症状が出る以前(二週間以内)に草や木の多い場所、河川敷の草むらなどに行っていないか
・不審な虫刺されのあと、赤く腫れあがった傷あとなどがないか(刺し口がない場合もあるらしいので注意)
の情報を医者に提供することが非常に重要なポイントとなる。
直近のこれらのダニ感染症に感染した患者のうちわけを下記に紹介する。
東北、北海道だけの脅威じゃない!九州、西日本でも「ツツガムシ病」は起きている
国立感染研究所「ツツガムシ病とは」月別地方別の患者発生数 より引用
この図を見ると、これまでの「本州中央部以北、東北、北海道」という概念が全く通用しないのがわかる。
むしろ、九州や本州、四国での患者数が増えている。だから「ツツガムシ病」も「ライム病」も決して「この地方に住んでるから心配ない」などどいう乱暴なまとめかたは決してできないということが分かる。
次に紹介するのがツツガムシ病の患者数および、届け出都道府県数のグラフだ。ほぼ全県、つまり「ツツガムシ病」には安全な都府県などは存在しない。
しかも爆発的に患者数が増えている。1980年代から爆発的に増えているのは、この病気が認知されて診断される人が増えたからだろう。
国立感染研究所「ツツガムシ病とは」患者数および届け出都道府県数の推移 より引用
これを知っていると安心できる。ライム病にかからないためには
上記では「ライム病」ではなく「ツツガムシ病」の話を紹介したが、ライム病を引き起こすダニの話を少し紹介しておきたいと思う。
ライム病ボレリアは、野山に生息するマダニ(イクソデス・マダニ、図1)に咬着されることによって媒介、伝播される。北米においては主にスカプラリス・マダニ、欧州においては主にリシナス・マダニがライム病ボレリアを伝播するとされている。本邦においては、シュルツェ・マダニの刺咬後にライム病を発症するケースがほとんどで、これらマダ ニは本州中部以北の山間部に棲息し、北 海道では平地でもよく見られる(一般家庭 内のダニで感染することはないとされている)
国立感染研究所「ライム病とは」より引用
上記の写真を見てもらえれば分かると思うのだが、幼虫は非常に小さい。0.5ミリあるかないかのレベルだ。しかし上記でも挙げたように、この「イクソデス・マダニ」は家庭にいるダニとは全く異なるダニである。

イクソデス・マダニの左から幼虫、飽血幼虫、若虫、飽血若虫、成虫メス、飽血成虫メス) (旭川医科大学 宮本健司、中尾稔両博士提供) 国立感染研究所「ライム病とは」より引用
だから自分の自宅でライム病に感染すると戦々恐々とする必要はない。恐れるべきなのはバーベキューや河原、キャンプなどに出かけた際、草むらにいるこのダニに刺されるケースだ。
しかもこのダニに36時間以上噛みつかれ続けていることで感染するケースが大半であり、くれぐれも手足や肌を露出してこれらの草や林などに入らないことが最大の予防策といえる。
予防には、野山でマダニの刺咬を受けないことがもっとも重要である。マダニの活動期(主に春から初夏、および秋)に野山へ出かけるときには、
1)むやみ に藪などに分け入らないこと
2)マダニの衣服への付着が確認できる白っぽい服装をすること
3)衣服の裾は靴下の中にいれ、虫よけをし、マダニを体に近 寄らせないこと
などを心がける。
また万一刺咬を受けた場合には、自分でマダニを引き剥がさず病院の皮膚科で切除してもらうのがよい。無理に虫体を剥ぎ取 るとマダニの刺口が皮膚の中に残り、感染を増長する場合がある。
国立感染研究所「ライム病の治療・予防」より 引用
最後に
彼女が悩みながらもこの病気を公表したのは、自らの発信を通じてこの病気を知ってもらいたい、という強い気持ちと、少しでもこれからこの病に苦しむ人が減るように、という気持ちからだと思う。
実際、彼女のような有名歌手がそのことを公言したという影響力は相当大きなものだと思う。
先に紹介した「ONE OK ROCK」とアヴリルのコラボレーション曲「listen」に彼女のことを示唆したような歌詞があった。
彼女はとても勇気のある女性だと思う。これからも、体を大事にしながら素敵な音楽を紡いでほしい。