8月28日、岐阜市にある高齢者専門病院「Y&M藤掛第一病院」に岐阜県警が捜査に入った。容疑は「殺人容疑」83歳~85歳の高齢者の重症患者を冷房が故障した部屋に寝かせ、四名が亡くなった事件を受けての捜索だ。
事件がおきたあと、藤掛第一病院の藤掛院長が病院に詰めかけた報道陣の質問に答える一幕があったが、院長の口から出てくるのは恐ろしいほど他人ごとに聞こえる軽い言葉ばかりだ。
この事件を紹介しながら、なぜここまで院長は他人事になれるのかという構図を考えてみたい。
目次
Y&M藤掛第一病院熱中症事件概要
8月26日から27日の正午にかけて、藤掛病院に入院していた入院患者4名が死亡。また28日にももう一名の死亡が確認され、結局この病院では5名の熱中症死亡者を出すことになった。
この日の岐阜市の気温は26日は36度、27日は37度を記録するなど非常に暑い日が続いていた。
問題なのは病院の三階と四階のエアコンが一週間前にあたる8月20日から故障していたこと。報道陣の取材で新たに判明した事実では、4~6人の相部屋に対し、家庭用扇風機が一台の状態で暑さ対策をしていたという状況が明らかになった。
警察は病院側が適切な暑さ対策を怠ったために5人の患者が死亡したとして8月28日、藤掛中央病院に捜索に入った。
藤掛院長とマスコミの対話内容(今回のことに関する病院の考え)
ここからは8月28日の藤掛院長とマスコミの会話内容を会話形式で紹介する。
注:(院)=藤掛院長 (マ)=マスコミ である。
(院)「今現在ですね、警察に」
(マ)「マスク取ってもらっていいですか?」
(院)「えっ!?(聞き返す)」
(マ)「すいません、こっち向きで」
(院長、マスクを外し、カメラを正面から見る)
(院)「今、警察に協力してやっております・・・で、よろしいですか!?」
(すでに切り上げたがりそうに語尾を切りもう一度念を押す)
(院)「協力してやっとるんです」
(広報担当者の男性、院長の代弁をするように話す)
「病院としては何か問題があったとは考えておりません」
方言なのか、それとも標準語なのか「やっとるんです」という言い回しが誤解を招きかねず、ちょっと偉そうに聞こえてしまう。「協力してやっているんだ」という風に聞こえかねず、しょっぱなからあまり言葉に気を使っている様子がない。
エアコンの故障について
(マ)「エアコンが故障していたっていうのは事実なんですか?三階と四階の」
(院)「はい20日に 8月20日に急に壊れまして、いまエアコンの効く部屋に緊急避難的に移動してもらってやっております」
(マ)「亡くなった4人の方はエアコンが壊れた部屋にいた?」
(院)「そういうことですね」
(マ)「部屋には(患者さんは)何人居たんですか?」
(院長、広報担当の男性に問いかける)
(院)「何人おった?」
(広報担当の男性、答えずにどこかに行ってしまう。彼も把握していなかったのか?)
(院)「ちょっとね、あの人が詳しいもんで」
(マ)「四人とも同じ部屋に居たんですか?」
(院)「いやいやいやいや」
(広報の男性、院長に小声で耳打ちをする)
(院)「え?なんて?」
(突然の宣言)
(院)「今ね、捜査中ですのでここで(対話を)打ち切りたいと思います」
(マ)「途中までお答え頂いたんで!(語気を荒げる)」
ここらで完全に対応のまずさが顔を出してくる。まず患者数を把握していない、きちんと答えられず患者自身を診ているはずの院長が広報男性に聞くという不思議さがカメラの前で明らかになる。
このあたりで広報男性は「打ち切ったほうがいい」と判断したらしい。
故障後の対策について
(マ)「20日にエアコン壊れて、どういう対応をされました?」
(院)「扇風機をね、出しました。9台」
(マ)「(エアコンが壊れた)20日からずっと扇風機で対応した?」
(院)「すぐ移動もしましたけれど、エアコンが効く部屋にね、重症の人はね」
(マ)「亡くなられた方は重症ではなかったのか」
(院)「いや~・・・(広報担当者の顔を見て)どうやったかなあ」
(担当者、重症でした、と小声でつぶやく)
(院)「重症やったね」
(つまり彼らは重症にも関わらず、十分な暑さ対策をされていなかった)
(院)「(亡くなられた方の病気)COPDの気管支ぜんそくはあっという間に亡くなりますね。そういう病気ですね、恐ろしい(と急に饒舌に話し出す)
(マ)「急変、恐ろしいですね」
(院)「恐ろしい」
(つまり亡くなったのはCOPDが原因だったといいたい模様)
(マ)「四人の方はエアコンの効く部屋に移動させたあと亡くなった?」
(院)「ん?いやいやそのままで」
(マ)「男性がCOPDでその他の(亡くなった)人は?」
(院長、広報男性をちらりと見る。広報男性、慌てて言葉を挟む)
「今は警察の人に協力して調べて頂いている段階なので・・・」
(広報男性、打ち切りたそうにそう繰り返す)
(院)「心不全やっけ?ちょっとはっきり覚えてないんですけど 心不全の人もおれば、多臓器不全の人もいろいろおったもんで・・・今頭の中に残っとるのでは心不全」
死亡者を出したのに、死因を調査していないのだろうか?その上、亡くなった方が重症だったか否かすら答えられないという印象の悪さ。
一体今回何を話すためにマスコミの前に出てきたのだろうか?普通は原因はどうあれ「当院でこうしたことが起きてしまい、申し訳ありませんでした」と一言あるのが普通だろうに「覚えてない」「何階だっけ」
などと印象を悪くする言葉しか言ってない。しきりに患者の気管支喘息の話を強調し、熱中症ではなく急変だと言いたい模様だ。
4人の患者の病状について
(マ)「四人の方は意識ある方だった?」
(院)「最後のほうはもうだめでしたね」
(マ)「最後の方っていうのはもともと意識があって入院されてた方なんですか」
(院)「まあそういうときもあるでしょうねえ」
(マ)「そういうときというのは?」
(院)「そういう方もいましたけど急変して・・・ずーっと行ったですね」
(マ)「それは亡くなるからじゃないですか急変したというのは」
(院)「そうですねえ。なんと言ったらいいかなあ(少し笑みを浮かべる)」
(マ)「20日までは元気だったんですか?」
(院)「そうでもないですね」
(マ)「意識があったのかなかったのかで言うと?」
(院)「あった人もいましたけど、ない人もいました」
エアコンの修理状況、修理見込みについて
(マ)「エアコンは20日に壊れていつまでに修理する予定だった?」
(院)「依頼してあります。20日すぐに(すぐに、を強調するようにもう一度)」
(マ)「20日に依頼していつまでに直る予定だったんですか?」
(院)「いや向こうがね、業者が一か月かかりますということで、まだ今修理ができてない状況ですね。一か月かかるって」
(マ)「この夏すごく暑い中でエアコンが付いてないとかなり厳しいと思うんですけれど患者さんにはどういう説明をした?例えば転院とかの方法はなかった?」
(院)「う~ん、ちょっとそこらへんはね・・・(と伏し目がちになる)」
(マ)「20日にエアコンが壊れて、患者さんの移動が20日に終わったんですか?」
(院)「・・・・(沈黙)」
(マ)「何日までにエアコンが壊れた部屋の患者さんの移動が終わった?」
(院)「移動は最初は扇風機だけだ対応して、そのあとに(エアコンが効く部屋に)移動しました」
ここで初めて院長が答えるまでに数秒考え込む様子が見て取れた。具体的な日にちに関して明言を避けた模様が伺える。
四人の患者がエアコンの部屋に移動させられなかった理由
(マ)「移動したのは全員じゃないですよね?」
(院)「あのね、患者さんの中でも暑い部屋がいいって人もいるんで、そういう人は残ってもらってるんですよ」
(果たしてそんな奇特な人がいるのだろうか?意味不明な理屈を持ち出した)
(マ)「今回亡くなった四人は移動してないんですよね?」
(院)「そうですね」
(マ)「移動してたら(熱中症には)ならないですよね?」
(院)「いや~、そこらへんはね。今警察が調べてくれているので」
(マ)「病院の認識としても エアコンの故障が死因に繋がったと?」
(院)「そうですねえ、非常に恐ろしい病気なもんで」
(完全に噛み合っていない)
(院)「ですからCOPDとか気管支ぜんそくとか」
(あくまでも熱中症が原因で亡くなったのではなく、COPDのためだと強調したい模様)
(院)「(亡くなった方は)若い時にたばこをすごくのんでたの。ですからね、たばこはひどいね」
あくまでも熱中症ではなく、患者本人の病状によるもの、という印象付けたいような話しぶりだ。今回のことは自分には責任はなく、患者のせいにしているようで気分が悪い。
四人が居た部屋について
(マ)「四人のうち三階が何人?四階が何人?」
(広報の男性の顔をちらりと見て)
(院)「ちょっと覚えてない」
(マ)「覚えてないというのはちょっとまずいと思うので・・・」
(院)「アッハハハハ(突然笑い出す)」
ここで笑うのはもう呆れるしかない。完全におかしい。ワイドショーで映った映像によると、この病院の建物は三つのパートに分かれており、うち三階も四階もあるのは二つの建物だ。
また、部屋数を数えたところひとつの建物は六部屋、もう一つの建物は四部屋だ。
上記に引用した会話内容からして「ひとつの部屋で4人が亡くなりました」と言えないということはつまり、この4部屋かあるいは6部屋の建物のどちらかの複数の病室で熱中症による死亡者を出したことになり、非常に印象が悪くなることを危惧したのかもしれない。
それに対してもここで笑いが出るのは少々ゾッとした。
どうやらこの病院は高齢者や終末期患者を受け入れていた病院らしく、院長もHPでこのようなコメントを残している。真剣な理念のはずなのに、今は非常に空虚に見えるのはなぜだろう。
まとめ
このマスコミとの会話を見て感じたことは、とにかく院長は「こんなことが起きて申し訳ない」と思っているどころか「体力が弱った重症患者だからそういうこともあるでしょうよ、まあ暑いのもそれに拍車を掛けていたのかもしれないがね」というものすごく他人事の匂いのするコメントを連発していたような印象だ。
ここまで平然とそこらへんを語れるのはなぜなのか。それはこの人が決して終末期医療に大きく関わっているから(身近に死が多いから)ではなく、この人自身の気質の問題のように思えたのだ。
この件に関してワイドショーのコメンテーターが「やはり終末期医療に関わっているから・・・」みたいな非常に乱暴なものいいをしていて呆れてしまった。
この人一人をもって、終末期医療に携わっている医者を一まとめにして語らないでほしい。真剣に患者のことを考えて医療行為をしている医者に対して非常に失礼だと思う。
ワイドショーコメンテーターも好き勝手なことをテレビで言い放題にして終わりではなく、きちんと勉強して話すべきだ。