西炯子マンガにおける結婚のかたちについて①仮面夫婦編

 

「今日は排卵期ですか」現実に言ったら完全にセクハラ案件

とんでもなセリフですが、ヒロインが恋愛関係に陥る男性「真木誠」がヒロインを口説くときに口にしたセリフです。

普通の生活で(例えば婚活で、デート一回目で、お見合いで、職場の女性に対して)このセリフを言うのははっきりいってセクハラです

しかしこのセリフにはカラクリが一つありまして、この「今日は排卵期ですか」というセリフの前に真木は身元を明かし「私は医師です」と言ったうえで「今日は排卵期ですか」が続きます。

な~んだお医者さんだったのか~!ならべつにおかしくないじゃん

ですよね・・・婦人科なんて行こうものならもっとあからさまなこと一杯聞かれますしセクハラなんて言うおんなの人はいないし、ってそういう問題じゃねえ!

この真木誠と主人公岩谷ヨリは実は同級生で(ヨリは真木を完全に忘れてた)真木が昔からヨリを好きだった、という前提があってのこの言葉なのですが。

私はこの「今日は排卵期ですか」はてっきり真木が「ヨリと排卵期に行為を持って子供を産ませたい」がための問いかけだと思っていました。

しかしこの「姉の結婚」を見ていくうちにこの言葉の持つ印象が変わりました。

姉の結婚(1) (フラワーコミックスα)

姉の結婚(1) (フラワーコミックスα)

いい加減な男だけど「無軌道」ではない

よく考えれば、真木は妻の理恵と仮面夫婦とはいえ生活を共にしています。

あとあと読んでいくと、離島の診療所で若干(性的に)やや荒れつつある生活を送っている女の子に対して真木が言うセリフがあります。

 

「あなたは早産で本当に命が危なかったんです。父の片手の上にのるほどの大きさしかなかった。あなたのご両親はあなたをそれは心配してあなたを大切に育てたのです。それをあなたが粗末に扱うことは許されません」

 

こんなことを言う男が、まだ離婚もしないうちから妻以外の女性と子供を作るはずがありません。

真木の「今日は排卵期ですか」はどちらかというと「今は子供はできませんか、大丈夫ですか」という確認だと思うとつじつまが合うような気がします。

(でも完全にセクハラなことには違いない・・・)

注:排卵期にかかわりを持てば確かに妊娠の可能性が高まりますが、だからといってそれ以外の時期に関わりを持ったら絶対妊娠しないということはありません。排卵期=妊娠は「絶対」ではありません

 

「お互い恋は外で自由に」割り切りすぎた「契約」としての結婚

真木と理恵は月一ではありますが「妊娠しない時期」を狙って夫婦生活を持っています(このへんが妙に律儀な二人です)

真木と理恵は「お互いの生活には干渉しない、恋は自由に」という開けすぎた夫婦の形を送っており、実際妻の理恵は自分のやりたいことをし、好きな男と結婚前と同じように会っています。

 

「初めから夫を愛さない。他の男を愛している」ということを公言したうえでいわば、結婚という鉄壁の社会的バックボーンを得たうえで好き放題している訳です。

 

つまり理恵にとって結婚とは

独身(法的バックボーンは得られないが好きな男と付き合える)

結婚後(既婚でイケメン医師と夫婦というステイタスを手に入れる。これまでと変わらず好きな男とは会い続ける)

紛れもない上昇婚であった訳です。つまり真木は理恵を彩る「イケメン・高ステイタスのアクセサリー」として存在している。

そういう意味ではこの理恵の提案する「仮面夫婦生活」はどちらかといえば男性から女性に求められがちなライフスタイルだと思います。

高収入、高学歴、高ステイタスの男性が、財と富裕を与える代わり、妻には「若い、綺麗、美貌」を求めるいわゆる「トロフィーワイフ」を演じることを求める。

この「姉の結婚」では理恵が真木と結婚することを決める際こういうことを言います。

私の家族なんだからそれにふさわしくなって

着るものは私が選んだものだけにしてください

島通いはやめて大学だけで働いて

 

またこうも言います。

みんなが羨む夫でいてね

でなきゃ結婚した意味がないから

ご不満?でもね 結婚ってつまることそういうものよ

 

姉の結婚 5 (フラワーコミックスアルファ)より引用

姉の結婚 5 (フラワーコミックスアルファ)

真木は父親の借金を返す代わり、こう言ってのける理恵と結婚することを決めます。

同じパターンで性別が入れ替わったパターン(つまり旧来のトロフィーワイフ型)は同じ西炯子著「初恋の世界」でも登場します。

 

初恋の世界 1 (フラワーコミックスアルファ)

初恋の世界 1 (フラワーコミックスアルファ)

 

「結婚ってこういうものだ」請われるままに結婚した女性

主人公の友達「よっさん」は歯科医の男性とお見合いの後結婚。熱烈な愛や恋愛感情はなく、淡々とした生活ではあったけれど、郊外に一軒家を設けて二人の子供にも恵まれ、それなりに幸せに(周囲から羨まれる)そこそこ裕福な暮らしを送っています。

ところがよっさんはある休日夫を「パパ」と呼ぶ男の子に遊園地で出会います。彼は夫が「結婚前からの付き合い」の水商売の女性に産ませた子供で、それをその時までよっさんは知らされずに暮らしてきていたのでした。

このケースでは「姉の結婚」における真木と理恵のような共犯関係はありません。真木と理恵は互いに(容貌・社会的地位)=(借金返済)というステイタスを交換しているいわば「ウィンウィン」の関係であるのに対し、よっさんは夫に結婚前からの付き合いの女性がいたことも知らず、子供もいたことも知らされず、なおかつ夫が女性との付き合いを継続していくことを事前に知らされていません。

よっさんの夫は本当にずるくて「不自由はさせません。あなたならいい家庭を築いてくれそうだ」と事実に微妙にカスった言い方をしていますが、もうこの時点で「女と自分の都合のいい生活のための隠れ蓑」としてよっさん(妻)を利用する気まんまんだったのです。

本当になぜよっさんはこのことを盾に取らず黙って夫の言うがままになっているのだろう。もっとやりようがあるはずです。

恐らく彼女は二人のこどもたちの為に愛のない夫でも維持しておきたいのでしょう。

 

あたりまえにある「家族としてのかたち」それが手の届かないものなのはなぜ

自分自身の「きちんと愛されたい、丁寧に扱われたい、仲の良い家族としてふつうの生活を送りたい」という欲求を全て後回しにしてしまい、子供たちがいざ離婚となったときに受けるダメージや、社会からの孤立を恐れているのだと思います。

普段はそのことを物わかりのいい顔をして理解しようとしているよっさん。けれど一番最後に押し隠した自分自身の気持ちだけはごまかせず、苦しんでいます。

私たちは

一生少女ではなかった・・・・・・

かつてよっさんは主人公と一緒に漫画を描き、少女漫画のような出会いや王子様に憧れていました。漫画家を目指していたけれど夢半ばで結婚の道を選んだのに、実際は形があるだけの愛のない家庭に暮らしている。

そのギャップに耐えられず、苦しんでいるのです。

私は

幸せなんだろうか?

幸せだと思わなきゃいけないのかな

だとしたら 幸せってなんだろう

 

初恋の世界 3 (フラワーコミックスアルファ)より引用

初恋の世界 3 (フラワーコミックスアルファ)

 

「愛のない結婚」で枯れていくにはあまりにも若すぎて

彼女はこのことを誰にも言えず苦しんでいます。子供にも、実家の両親にも、学生時代の仲間たちにも。

それは彼女自身が「世間に思われている自分の生活」が好ましいもので、いまの「実際の自分の生活」を明かせば周囲が失望したり落胆すると、自分の気持ちよりも周囲のほうを心配しているからではないでしょうか。

今は生活に不自由はない。子供たちに寂しい思いを少しさせてしまうかもしれないが、それなりに平和に暮らしている。こんなにもひどい環境でも自分の心をなんとかごまかして、そこから抜け出すことを「怖いこと」だと考えている。

実際怖いのはこれを「おかしいとも思わなくなり、夫の行動に心が動かなくなるほど心が死んでしまう」ことだということがまだわかっていないのだと思います。

四巻で黒い顔を垣間見せたよっさん。心のうちを誰にも話せない彼女がちらりと見せた本音は幸いと言っては問題ですが、小さな救いのようにも思えました。

まだこんな顔をできるのなら大丈夫。きっと彼女は最悪な夫を切って、幸せな生活へと踏み出せるでしょう。


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