ミステリー・マンとは何者か 前編「ロスト・ハイウェイ」感想⑤


 

前回は「ロスト・ハイウェイはフレッドによってディレクターズ・カットされた記憶である」という話に触れたのですが、今回は謎の多すぎる「ミステリー・マン」の正体について考えます。

注:今回も勝手な推測を書き綴っています。

「映画を見ていてあれこれ浮かんできたこと」を書いていますので、全く謎解きの手助けにはならないことをあらかじめお断りしておきます。

あと非常に長いのでご注意ください。前編に分けました。

 

ミステリー・マンの正体を考える

まず私が考えた分類は二種類です。

A.超常的な存在 B.実在の存在

まずAの「超常的な存在」という分類ですが、このAに含まれるのは空想上の存在、妄想の現れ、霊的な存在ということになります。

Bに関しては実際の体を持った人間、つまり実在している人間という分類です。

ではこの二つを順番に考えて行きます。

 

A(超常現象説)

①ミステリー・マンはフレッドの妄想の賜物である

②ミステリー・マンは「ボブ」的な存在である(実態を持たない邪悪な存在)

③ミステリー・マンはフレッドの僅かに残っている「客観性」をあらわした存在である

 

この「超常現象説」ざっとまとめただけでも三パターン出てきます。この三つの中でリンチ的に解釈するならば②であろうと思うのでまず②を考えてみます。

もしかして「ミステリー・マン」は体を乗っ取られているだけ!?

推論①「人間を超えた力」でフレッドを心理的に追い詰めている?

パーティでの思わせぶりな態度。余裕たっぷりな表情。それは彼がいつでも「フレッドの家に行きたければ行くことができる存在」だからなのではないか。

うまく表現ができないのですが「ツイン・ピークス」でボブが人間の体を宿主にして現実的な悪いことをしていたように「彼」はただその存在に「体を貸しているだけ」なのではないか。

「彼」はボブのように「邪悪なもの、こと、人の恐怖」が大好物なので、宿主の男の姿を借りてエディー(ディック・ロラント)の「傍」にいることで、彼の周囲にある「さまざまな邪悪」をエサにすることでメリットを得ていた。「The Retuen」でいう「ジュディ」的な存在ではないか、という推測です。

 

まさかとは思いますが、この「ミステリー・マン」とは、フレッドさん、あなたの想像上の存在にすぎないのではないでしょうか。

推論②「不気味な男が自分を追い回す」という妄想がフレッドには必要だった?
フレッドとレネエの間には冷たい風が吹いています。もはやこれから二人の夫婦関係が盛り上がる気配はなく、どんどん冷めていくだけだということが序盤のいくらかのシーンを見ていると分かります。
妻と共通の話題がない。妻も自分の好きな音楽に興味を示さない。気分転換にパーティに出掛ければパリピの妻と堅物の夫の対比が浮き彫りになるだけで、もっと取り返しの付かない断絶が出来てしまった。

 

前回の「フレッドは信頼できない語り手」だということを踏まえて考えてみると、実はアンディの家で行われたパーティは謎のビデオ云々、の騒動以前であったという時系列が成り立たないでしょうか。

 

なぜなら、レネエの反応があまりにも鈍すぎます。ふつう「自分の家の中を撮影している怪しい人間がいる」「どこから入っているのか分からない」のが分からない時に、レネエのような鈍い反応を示すでしょうか。
もっと怯えるのが普通の反応だと思うし、何なら「警察を呼びましょう」ということを言い出してもおかしくない。ところが「誰かうちのなかにいたの?(居なかったでしょ)」とフレッドを咎めるしまつです。

 

もしかして、怪しいビデオなど本当はなかったのでは?
フレッドが精神的にあまりいい状態ではなかったことは、レネエとの寝室のシーンで分かります。いざというときに役に立たず、自己嫌悪気味です。明らかにメンタルが影響したふうに見えます。

 

普段からレネエは「最近この人どこかおかしいわ、何だか過敏になっている気がする」と思っていたからこそのあの「誰か家にいたの?」だったのではないでしょうか。

 

一方のフレッドは「自分たちはともに何かに脅かされている」という妄想をレネエと共有することによってメリットがあった。だからそこに逃げ込み、その考えに固執しようとした。
その過程で生み出されたのが「正体不明の自分たちを追い回す男、ミステリー・マン」ではないのか。

自分の中の「ごまかしようのない正気の自分」や「良心の咎め」が人の姿を借りてフレッドの「自己欺瞞」を容赦なく抉っている?

推論③妄想に逃げ込もうとしても客観が追いかけてくる。それがビデオを回す男
「以前お会いしましたね」
「どこで?」
「あなたの家ですよ。今もあなたの家にいますよ」

 

この会話だけを聞いていると「ミステリー・マン」は不気味で得体のしれない、気味の悪いことを言うちょっとおかしな男という風にしか思えません。
しかし「ミステリー・マン」がフレッドから分化した存在、つまり「フレッドの内面から立ち現れてきたシャドウ」だったと想定すると、あくまでも本人なのだから「家にいる」ことは全くおかしくはない。

 

 

フレッドは彼を恐れる。その不気味な白塗りの顔と、持って回った不気味な言葉の数々とにやにや笑いをではない。

 

彼が、いつどこに現れて自分を見ているか分からないから
物事を起こった通り記憶したくないのに、いつその容赦ない「客観」で自分を裁いてくるのか分からないから
「ビデオの映像」=「編集する前の出来事」をいつ見せてくるか分からないから

彼が恐れているのは実は「彼の容貌、言動」ではなく「容赦ない事実」のほうなのではないのか。

 

おまけの珍説 ミステリー・マンは「デヴィッド・リンチ」を体現している?説

これは本当に荒唐無稽なのですが、個人的に「こういう説もありかなあ」と考えてみた説です。

まずこの説の根拠は「あなたの家にいますよ」という先程の言葉。そりゃあいますよ。だってこの映画の監督なんだもん。「すべてを見ていて、知っている」のは当たり前なのではないか。

私がこの説を思いついたのがラスト近くの砂漠の一軒家のエピソードです。小屋に入ってみると「ミステリー・マン」は言います。

「あの女はアリスではない。レネエだ。名前を偽ったに違いない。」そう言って、逃げ出したフレッドを追いかけてきます。

ミステリー・マンがフレッドを追いかけてきたとき、ビデオカメラでどこまでも彼を撮ろうとします。

そこに何か「目の前のものは何もかも撮らずにはいられない」という芸術家の狂気のようなものを感じてしまったのですね。

それで「ひょっとして、あのキャラはリンチの代弁者なのではないか」という説が浮かびました。

いずれ「フレッドの好まない客観、事実だけを写し取ろうとする存在」であることには違いはないので、こんな珍解釈はどうかなと思い書いてみました。

次回は「今回書ききれなかった ミステリー・マンは実在の人間説」について書こうと思います。

 

番外編

注:以下、軽い話なのですが非常に長いので分けました。

 

「あの女はアリスではない!レネエだ!」ピート逃走、車にカメラを構えながら追いすがってくるミステリー・マン。

このやりとり「不思議の国のアリス」を連想してしまいました。「首をはねておしまい!」とトランプの女王が叫んだ途端、トランプが雪崩を打ってアリスの上に覆いかぶさってきて、アリスが必死で逃げるシーンです。そういえば「アリス」は夢オチでした。

番外編②(フレッド妄想説に新たな説!?)

まさかとは思いますが、この「弟」とは、あなたの想像上の存在にすぎないのではないでしょうか。

このフレーズはネット界で絶大な知名度を誇る精神科医「林先生」の名言から引用しました。

元ネタは「うちの中にストーカーがいます」という林先生への相談です。相談者は38歳のニートの弟が相談者に細かい嫌がらせをする、という相談を寄せてきました。

嫌がらせの内容は「自分が起きる前の一時間から30分早くに目覚ましを鳴らす」「部屋までついてきて、部屋の前で気味の悪い笑い声をあげる」「お風呂をとても熱くて入れないような熱い湯に入れ替える」などもし事実ならばかなり深刻と思われる症状でした。この相談者に林先生は言います

「○○が自分の行動を監視し、いちいちそれに合わせて嫌がらせをする」というのは、統合失調症の方の典型的な被害妄想の訴えでもあります。」精神科Q&Aより引用

「怪しい弟」というのは相談者が作り出した「空想上の存在」なのではないか、と林先生は控えめに指摘します。非常に短く、優秀な叙述ミステリーのようなオチを迎える相談です。

もしかしてフレッドは統合失調症!?「家を見張られている」「変な男が自分を付け回している」なんて、まるで上記の症状のようではないですか?

「ミステリー・マンの正体」と親和性が高い話だと思ったので長々とご紹介しました。

 

 

 


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